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2013.07.21.09.43

"THE GREATEST LIVING ENGLISHMAN" by MARTIN NEWELL

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この作品に出逢った時の、目眩めいたモノの感触は今でも憶えている。
外資系の大手輸入盤店の、どこに行っても、新着コーナーの最前列にこのCDが並んでいたのである。俗に言う"面出し"というやつである。
そして、整然と並べられているCDの脇に添えられた、手書きポップには、殆ど総てと言っていい、共通の言葉が書き連ねてあったのである。
アンディ・パートリッジ (Andy Partridge)・プロデュース、と。
1993年の事である。

とりあえず、作品の主役であるマーティン・ニューウェル (Martin Newell) よりも先に、アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) の事から書き進める方が、解りやすいだろう。

アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) とは、エックス・ティー・シー (XTC) の実質的なリーダーである。彼らの作品については、この月一連載の中で、既にここで紹介済みだ。
1993年当時の、アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) とエックス・ティー・シー (XTC) について振り返ってみると、彼らにとって第10作となるスタジオ作『ノンサッチ (Nonsuch)』がヴァージン・レコード (Virgin Records) から発表されたのが、前年の1992年。そして、次作である『アップル・ヴィーナス・ヴォリューム 1 (Apple Venus Volume 1)』が発表されたのがその7年後。しかも、その作品はレーベルを移籍し、クッキング・ヴァイナル (Cooking Vinyl) 内にセルフ・レーベルであるアイデア・レコード (Idea Records) を設立しての事だから、少しきな臭い匂いがする。

ヴァージン・レコード (Virgin Records) 在籍時代の後期における名作『スカイラーキング (Skylarking)』がトッド・ラングレン (Todd Rundgren) のプロデュースによって発表されたのが1986年で、その次作である『オレンジズ・アンド・レモンズ (Oranges And Lemons)』がポール・フォックス (Paul Fox) のプロデュースによって発表されたのが1989年、それに続くのが『ノンサッチ (Nonsuch)』であって、この作品はガス・ダッジョン (Gus Dudgeon) がプロデュースした。
エックス・ティー・シー (XTC) のファンならば誰しも知るところではあるが、その音楽性からみて最良のタッグマッチに観えるトッド・ラングレン (Todd Rundgren) との制作は、実は非常に難産の産物でしかなかった。プロデューサーとミュージシャンの関係性が、水と油以上に乖離を来たし、それぞれの精神までもが疲弊させる徒労に次ぐ徒労となったと聴く。
その様な逸話を聴くにつれて、以来、ぼく達は、彼らの作品のプロデューサーが誰なのか、他のアーティストの新作以上に、興味が尽きないモノとなっていった。
そして、それはぼく達の期待を裏切らない形で、次から次へと、興味を繋ぐ様な形で、惜しげもなく、名プロデューサーが投入されていく。
ポール・フォックス (Paul Fox) は後にシュガーキューブス (The Sugar Cubes) ~ビョーク (Bjork) 等を手がける事になるし、ガス・ダッジョン (Gus Dudgeon) はエルトン・ジョン (Elton John) を手がけた事で、その名が知られる人だ。

だけれども、一方でぼく達にはある疑念が沸き起こってくる事を遮るモノがなかった事も事実なのである。
何故、セルフ・プロデュースであってはいけないんだろう、と。
スカイラーキング (Skylarking)』から続くこの3作品、そのどれも力のこもった、と同時に、彼らの真価が発揮された作品群ではある。
だけれども、なぜか、非常に息苦しいのだ。
自由闊達なところが一切ないとも言えるし、ひとつの枠の中に押さえ込まれてしまっているとも言える。
その一方で、デュークス・オブ・ストラトスフィア (The Dukes Of Stratosphear) なる変名名義で発表された『ソニック・サンスポット (Psonic Psunspot)』 [1987年発表] は、彼らの趣味性に走ったとはいえ、やりたい事だけをやりたい放題にやりきっている清々しさが感じられる。

つまり、ぼくがなにを言いたいのかと言うと、彼らには既にエックス・ティー・シー (XTC) という名称が非常に重くのしかかっていたのではないか、という事なのだ。
それは取りも直さず、売れなければいけない、売れる作品でなければいけない、そんな大命題があったからぢゃあないのだろうか。
それを傍証する資料もなにもないのだけれども、所属レコード会社から相当な、プレッシャーがあったのではないのだろうか。

と、言うのは、彼らのヴァージン・レコード (Virgin Records) からの最終作が発表されたその年、ヴァージン・レコード (Virgin Records) は、イーエムアイ (EMI Music) に売却されたからだ。

だから、エックス・ティー・シー (XTC) ないしはアンディ・パートリッジ (Andy Partridge) としては、その新作を創る為の居場所さえ定かではない、永い永い浪人生活が始まったばかりの年が、マーティン・ニューウェル (Martin Newell) のこの作品『ザ・グレーティスト・リビング・イングリッシュマン (The Greatest Living Englishman)』の制作に携わった年なのである。

勿論、上にだらだらと書き綴った様な、内幕的なモノは、今だから言える事であって、その当時はそんな事等、考えた事もない。ただ、エックス・ティー・シー (XTC) の作品が発表される度に、その作品に向かい、毎回毎回異なる新たなプロデューサーの、その手腕を推し量るばかりである。
そして毎回毎回、言う事は同じで、"エックス・ティー・シー (XTC) はいよいよ勝負に出た"という訳の解らない戯言の様なモノなのだ。
そして、この戯言は恐らく、どこまで"通常の意味で"ポップになれるのか、どこまで"通常の意味で"キャッチーになれるのか、という意味合いなのだと、今にして思う。
ちなみに、"通常の意味で"と、二重に口ごもって見せているのは、彼らの初期の代表曲に『ディス・イズ・ポップ (This Is Pop?)』 [『ホワイト・ミュージック (White Music)』収録 1978年発表] があるからである。

と、言う訳で、ようやくマーティン・ニューウェル (Martin Newell) の『ザ・グレーティスト・リビング・イングリッシュマン (The Greatest Living Englishman)』を語る番がやってきた。

とは言うものの、その当時、そのマーティン・ニューウェル (Martin Newell) という人物がよく解らない。
冒頭に紹介した、輸入盤店での手書きのポップを読んでもよく解らない。そこに書いてあるのは、まず、アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) がプロデュースしている事と、あとは担当者の必死の思いだけである。
エックス・ティー・シー (XTC) のどの作品と共通点があるのか、とか、他の同ジャンルのどんなバンドのサウンドと似ているのかとか、そんな事ばかりである。否、そんな論評めいたモノよりも、その小さな手書きポップにあふれかえっているのは、如何に、その音楽が素晴らしいのか、如何に、その音楽を好きなのか、そんな事ばかりだ。勿論、そこにそんなことばを羅列する事自体は、それは決して間違った解釈でも間違った行為でもないし、書くべき事象のひとつではあるのだけれども、ぼくの知りたい事は、残念ながら、それではない。
ぼくが知りたいのは、マーティン・ニューウェル (Martin Newell) とは何者かであって、態のいいポップに記されている事といったら、"謎の人物"程度の事でしかないのだ。
今でこそ、ネットで検索すれば、オフィシャルのホームページにも簡単に辿り着けて、恐らく、そこではぼくの知りたい大概の事が記されているのに違いない。
だけれども、その当時は残念ながら2013年ぢゃあなくて、1993年なのだ。

だから、ジャケットに映るマーティン・ニューウェル (Martin Newell) なる人物は、実は仮想の存在ではないかと、思った程なのである。
それ程に、そこに姿を顕している"マーティン・ニューウェル (Martin Newell)"は奇矯な風体をしていたし、アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) ≒ エックス・ティー・シー (XTC) ならば、それくらいの演出をしかねないからだ。先に書いた様に、変名バンド、デュークス・オブ・ストラトスフィア (The Dukes Of Stratosphear) という実績も既にあるのである。

だから、この作品で縦横にして無尽に展開されているサイケデリック (Psychedelic Music) のテイストを堪能しながらも、こころのどこかで、疑似エックス・ティー・シー (XTC) とも、疑似アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) とも、聴いていた風情がある。
実際に楽曲の殆どが、アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) とマーティン・ニューウェル (Martin Newell) の2人だけの演奏によって形を成しているから、あながち、間違いではない。
ではそれとは逆に、主人公たるマーティン・ニューウェル (Martin Newell) はどこに居るのかというと、この作品だけでは、ぼくには答えようがない疑問なのかもしれない。
全曲の作詞と作曲そしてヴォーカルを手がけている、と、クレジットの棒読みで回答する事は、いくらでも出来る事なのだけれども。

だからなのだろう。本作品の初回限定盤には、彼のライヴ・パフォーマンスをまるまる収録したCDが一枚、封入されている。
その中で聴く事が出来るモノが、アンディ・パートリッジ (Andy Partridge) という色眼鏡を外して観える、彼の音楽の日常なのだ。

ものづくし(click in the world!)130. :
"THE GREATEST LIVING ENGLISHMAN" by MARTIN NEWELL


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"THE GREATEST LIVING ENGLISHMAN" by MARTIN NEWELL

VERY LIMITED EDITION includes bonus LIVE POETRY CD
Featuring the New, Improved ANDY PARTRIDGE

1. Goodbye Dreaming Fields
2. Before the Hurricane
3. We'll Build a House
4. The Greatest Living Englishman
5. She Rings the Changes
6. Home Counties Boy
7. A Street Called Prospect
8. Christmas in Suburbia
9. Straight to You Boy
10. The Jangling Man
11. The Green-Gold Girl of the Summer
12. An Englishman's Home

All tracks published by NIPPON T.V. (U.K.) Ltd
(P) & (C) HUMBUG 1993

Words and music by Martin Newell.
Produced and engineered by Andy Partridge.
All guitars and basses by Martin Newell except :
Green-Gold Girl of the Summer solo by Captain Sensible
We'll Build a House solo by Andy Partridge
Drums and most percussion by Andy except :
Green-Gold Girl and A Street Called Prospect which were done by Lol Elliott.
Martin played keyboards but Andy didi a bit too as well as that delicious string arrangement on Before the Hurricane.
Lol Elliott recorded and devised the very evocative sonic links which punctuate the songs. Martin did bad mandolin on Home Counties Boy.
Andy spent hours and hours doing very clever stuff with a computer.

Malcolm Latchman ( 'A new breed of Hero' ) did the sleeve design and packaging.
Jim Symonds R. A. took the photographs.
Roddy Ashworth helped with the original demoes for some of the songs esp. the rough design of the drums for The Greatest Living Englishman.
Thanks are also due to Lol for accomodation and hospitalitee at 'Flat of Elliott'
Thanks to Lizzy Lewry for transport and tea.
All words and music published by N.T.V, Music U.K. Ltd.
Thanks also to Dave Gregory ( 'Pop Mastermind' ), Kevin Crace Bumhug Records.
This whole mess of pottage, or pot of message was recorded on digital 8 track in a shed and mixed by Andy with a bit of pushing and tweaking from Martin.
It was mastered at Porky's in Londinium.

A full version of these credits written in unneccesarity archaic and flowery English is available if you send an s.a.e. to ; Humbug Records

THIS WORK IS DEDICATED TO H. E. WRIGHT (1899 - 1984)

liner-notes :
GEORGE ORWELL "England Your England The Lion and the Unicorn 1941"
"EXCERPT COURTESY OF THE ESTATE OF THE LATE SONIA BROWNELL ORWELL AND MARTIN SECKER & WARBURG LTD."

"Live at the Greyhound" by Martin Newell

Limited Edition
UNSUITABLE FOR MINORS

Recorded at The Greyhound, Wivenhoe on Dec. 11th 1992. and July 8th 1993 by NIck the Dogg.
Thanks to Mrs. Jan Foreman, "the landlady time forget"

1. Intro.
2. Orgasm Ray Gun.
3. I Hank Marvinned.
4. Lloyd Grossman Hits The Skids.
5. The Golden Eagle.
6. The Lawn's Pear.
7. This Is What I'd Like.
8. Will You Still Love Me.
9. What Did Your last Servant Die.
10. Catsick.
11. Heroin In Whiskas.
12. A Sink Called Ron.
13. This Is What She's Like.
14. Journey To The Bottom Of Your Handbag.
15. The Bastard Son Of J. R. Hartley.
16. A Quick Slash.
17. Mr. Kiplings House Rap.
18. Bruce Forsyth Calls It Off.
19. The Railway Children.
20. Government Guitar Warning.

MARTIN NEWELL IS PUBLISHED BY NIPPON T.T. (U.K.) LTD.
(P) & (C) HUMBUG 1993

この作品は、何度かジャケットのアートワークに変更が加えられていて、いくつものヴァージョンが存在している。
ぼくが所有しているのは、上のクレジットを読めば解る様に、ライブCDが1枚追加された限定盤である。
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