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2013.07.19.09.29

Baby's On Fire

その村には、年に一度、産まれたばかりの赤子を、火に投じる風習がかつてあったという。

勿論、近代文明の波が打ち寄せるに従って、その風習は禁じられた。
最初は法律によって。しかし、官憲の取締の眼をくぐる様に、法の網目をかいくぐる様に、その風習に殉ずるものたちは、後を絶たなかったという。
勿論、事前に、もしくは事後に、その事態が発覚した際には、その行為に関わった総てのものは、厳しく処断された。
いかなる理由があるにせよ、いかなる信仰に準じているのにせよ、近代文明の下では、それは殺人にすぎない。
にも関わらずに、その村で実際にその奇習が絶え果てるまで、ながいながい年月を要したのも、事実なのである。

なぜ、その奇習がその村に産まれ、そして、かくも永きに渡って行われ続けてきたのか、その真を問うのは、難しい。特に、殺人として法的に禁じられてもなお、その地の人々が、奇習に準じていたのかを問い糺しても、簡単にはその答えは出てこないだろう。

だが、村は小さく、その土地は限られたものだった。
だから、飢えや貧しさから、幼い我が子に手をかけねばならぬ、そんな哀しい時代が永く続いたせいなのかもしれない。それが、いつしか間引きが制度化されたのか、さもなければ、態のいい人身御供の様な取り決めが産まれたのかもしれない。
ただ、それを語り継ぐことばが、村には遺されていないのだ。

如何なる理由があろうとも、如何なる制度や掟であろうとも、永く伝えられているものの殆どは、その正当化でもある、口伝や伝説や神話の類いがある筈なのだ。
だが、ことこの村には、それに類した類いのことばは一切、遺されていない。
ことばが産まれる前に、外部のちからによって禁じられ、あとはひたすら、文明の闇の中でのみ、その奇習が行われ続けてきたのである。

[the text inspired from the song "Baby's On Fire" composed and performed by Brian Eno for the album "Here Come The Warm Jets".]

images
"Baby's On Fire"
from the album "Velvet Goldmine : Music From The Original Motion Picture"
performed by Venus In Furs on vocal Jonathan Rhys Meyers
for the movie "Velvet Goldmine" directed by Todd Haynes

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