2013.07.05.17.23
都心部とそのベッドタウンを結ぶその路線に、ちいさな突起物の様な支線が一本はみ出ている。あたかもそれは、盲腸の様であって、必要とする人種は、ごく限られていた。
その支線の先にはたったひとつの駅しかなく、本線とそのたったひとつの駅だけを往復する、小編成の電車が、律儀にも日に何度も何度も、往復していた。つまり、その支線にあるたったひとつの駅へと向かう直行便は、都心部からの便も、ベッドタウンからの便も、一切、なかったのである。
その支線のたったひとつの駅を降りると、目の前に、ちいさな動物園とちいさな遊園地があった。と、言うよりも、こじんまりとした娯楽施設がふたつあったが為に、盲腸の様な支線が敷設され、その突端に駅が設けられた次第なのである。
(その支線の開設が決定した当時、その名称をいずれにするべきか、一悶着があったと言う。動物園の名を委ねるべきなのか、それとも、遊園地にちなんだものにするべきなのか。だが、今となってはそれは些末なものでしかない事は自明だ。その短い路線がどの様な名があろうとも、殆ど誰も気にかけないからだ。)
だから、都心部とベッドタウンを往復する勤め人、つまり、その本線を利用する大部分のヒトビトにとっては、不要不急の駅であり、その駅と繋ぐ為に、自身の乗っている特急や急行や通勤快速が、大事な時間を割く事は、納得が出来兼ねるものだったのである。
確かに、そんな彼らも休日には、ふたつの娯楽施設を利用した事があったかもしれない。自身の幼い子供時代と、己が親と呼ばれる立場を獲得したときだ。
だけれども、その慎ましやかなふたつの娯楽施設は、一度、行ってしまえばそれで充分な程に、なにもなかった。それに第一、己の子供時代はともかくとしても、現在ならば、都心部からさらに向こうに、華やかなレジャー施設がいくつも出来てしまったのだ。せっかくの休日に家族そろってでかけるのならば、そちらの方が遥かに楽しいのに違いない。
だから、その支線の先にある、ちいさな動物園とちいさな遊園地は、いつもひっそりとしていて、あたかも永い永い冬眠時間にある様に、見受けられていた。
そして、誰の目にも、ふたつの娯楽施設に、春が来ようとは思えなかったのである。
だけれども、時代が変わればヒトも変わる。
都市の再開発の煽りをうけて、その駅の周辺には、いくつもの学校が建設される事となった。
盲腸の様な、その支線を毎日毎日、学生達が通う事になったのである。
[the text inspired from the song "The Zoo" from the album "Animal Magnetism
" by Scorpions]
その支線の先にはたったひとつの駅しかなく、本線とそのたったひとつの駅だけを往復する、小編成の電車が、律儀にも日に何度も何度も、往復していた。つまり、その支線にあるたったひとつの駅へと向かう直行便は、都心部からの便も、ベッドタウンからの便も、一切、なかったのである。
その支線のたったひとつの駅を降りると、目の前に、ちいさな動物園とちいさな遊園地があった。と、言うよりも、こじんまりとした娯楽施設がふたつあったが為に、盲腸の様な支線が敷設され、その突端に駅が設けられた次第なのである。
(その支線の開設が決定した当時、その名称をいずれにするべきか、一悶着があったと言う。動物園の名を委ねるべきなのか、それとも、遊園地にちなんだものにするべきなのか。だが、今となってはそれは些末なものでしかない事は自明だ。その短い路線がどの様な名があろうとも、殆ど誰も気にかけないからだ。)
だから、都心部とベッドタウンを往復する勤め人、つまり、その本線を利用する大部分のヒトビトにとっては、不要不急の駅であり、その駅と繋ぐ為に、自身の乗っている特急や急行や通勤快速が、大事な時間を割く事は、納得が出来兼ねるものだったのである。
確かに、そんな彼らも休日には、ふたつの娯楽施設を利用した事があったかもしれない。自身の幼い子供時代と、己が親と呼ばれる立場を獲得したときだ。
だけれども、その慎ましやかなふたつの娯楽施設は、一度、行ってしまえばそれで充分な程に、なにもなかった。それに第一、己の子供時代はともかくとしても、現在ならば、都心部からさらに向こうに、華やかなレジャー施設がいくつも出来てしまったのだ。せっかくの休日に家族そろってでかけるのならば、そちらの方が遥かに楽しいのに違いない。
だから、その支線の先にある、ちいさな動物園とちいさな遊園地は、いつもひっそりとしていて、あたかも永い永い冬眠時間にある様に、見受けられていた。
そして、誰の目にも、ふたつの娯楽施設に、春が来ようとは思えなかったのである。
だけれども、時代が変わればヒトも変わる。
都市の再開発の煽りをうけて、その駅の周辺には、いくつもの学校が建設される事となった。
盲腸の様な、その支線を毎日毎日、学生達が通う事になったのである。
[the text inspired from the song "The Zoo" from the album "Animal Magnetism
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