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2013.05.31.08.01

Unforgettable

気休めに買ったビールだ。とても呑む気にはなれないし、酔う事も出来ないだろう。だが、ひとくちもいれない訳にはいかない。横にいる妻の為にも、だ。ふん、まさにこころここにあらず、だ。男親の役目は、こういうところにあるんだ。へたな気休めのことばよりも、普段道理に振る舞うべきだろう。気休めだ、ああ、所詮は、気休めだ。

息子が死んだ。
いや、正確には、息子とおもわれる男が死んだ。
息子にそっくりの男の屍体が発見された。

なんとでも言える。
どっちでも同じ事だ。

昨夜、警察から電話があった。本人かどうか、確認して欲しいと。

所持品から身元が分かったと言う。それしか教えてくれない。詳しい事は、所轄に赴いて欲しい。その一点だ。

家出同然に、あいつが上京してから、もう何年になるんだ。あれ以来、逢ってはいない。そして、なぜ、あいつがあんなところにいるんだ。なぜ、あんなところで死んだ。
東京で暮らしているのではなかったのか。

ああ、妻は時折、連絡を取っている。それは知っている。俺に隠れて、な。
昨日もそれを糾したが、知らないの一点張りだ。
俺を騙し仰せると想っているのか、それとも、混乱してしまっているのか。

あれからずっと、泣き続けだ。その屍体とやらが、あいつかどうかも不明なままに、もう、本人だと、決めつけてしまっている。

莫迦なおんなだ。狼狽えて、化粧ひとつ、満足にできてやしない。
老けたな、この女も。

そして、俺も、か。
ああ、俺も老いちまったよ、すっかりな。

扉が閉まった様だ。ようやく出発か。不味いビールだ。
どっちにしたって、数時間はこの座席にしがみついていなければならないんだ。その間、事態は進展も後退もしない、そういうわけだ。

しかし、ひどい話だな。
うちには、卒業写真しかないんだ。あいつが写っているのは。
この中に息子がいると言われても、俺にはどれが誰だか解らない。

こんな写真が、役に立つというのか。
大笑いだ。

[the text inspired from the song "Unforgettable" composed by Irving Gordon with an arrangement written by Nelson Riddle, from the album "The Nat King Cole Story" sung by Nat King Cole.]


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