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2013.05.28.09.26

りぴーとあふたーみー

それはいつもの授業中の光景だった。
テキストを片手に教師が、おおきくはっきりとした口調で、そこに書かれている文章を読み上げてゆく。彼女は、一文を読み終える度に、一息入れて、40数名の生徒が、いまさっき、読み上げたばかりの一文を読み上げるその様を聴いている。
アクセントはどうか、発音はどうか、抑揚はどうか。
生徒の読むその声から、聞き取るべきモノは、いくつもあるものの、彼女が注意深く、それを聞き取ろうとすればするだけ、虚しさがこみ上げて来るのも事実である。

何故ならば、その時間、クラスの殆どのモノは、身体こそそれぞれの席に座って入るものの、授業に参加していないからだった。

無感動に無味乾燥とした、茫洋とした声だけが、彼女の発話の後をこだましていた。

その年、新卒の中学校教師としてこの学校に着任してきた彼女は、困惑していた。
まだ、入学してから数ヶ月も経っていないのに。この態度は、どこで学習したのだろうか。

本来あるべき姿は、テキストを教師が読み上げていく過程を注意深く聴き、それを理解しうる最大限のままに、精一杯に、そっくりそのまま真似て発音する事である。
それは鸚鵡返しと呼ぶべきモノかもしれないが、今の彼らに必要なのは正に鸚鵡返しに過ぎない。語学の習熟とは、総てがそこから始まるのであって、彼らこそ、今正に、そのとば口に起ったばかりではないか。
生徒達のやる気のない発話を聴くにつけ、彼女の思考はいつも、そこに辿り着き、そこからどこへもいく事が出来ないのであった。

授業の進行についてこれないのだろうか。いや、そんなことはない。デキる子とデキない子の差は、そんなにはない筈だ。それは、毎回の小テストの結果をみれば解る。それに第一、今、だらけているのは、デキない子ではない、むしろ、デキる子の方に、熱意がない。

そうして、教師は一生懸命、自身の学生時代での状況等を思い返してもみるが、現状に対して明確な参考となる状況は、皆目、検討がつかないままだった。

彼女の困惑を他所に、生徒達自身は、自身が無気力である事も無関心である事も、当に自覚が出来ていた。否、寧ろ、彼女の授業中は、無気力であろう無関心であろうと、積極的に勤めていた節がある。
と、言うのは、今、彼女が教えている授業内容は、クラスの殆どのモノが既に数週間前に体験したモノと全く同じなのだ。予備校、学習塾、名称は様々ではあるものの、彼らは皆、学校外で、彼女の授業に先行するかたちでなんらかの、別のものからの授業を受けていたのである。

そして、彼らの立場に立ってみれば、数週間前の授業内容が、かなり酷い程度に、劣化したかたちで、この教室で再現されている様にしか観えなかったのである。

images
the poster for the movie "Zero de conduite : Jeunes diables au college" directed by Jean Vigo

次回は「」。

附記:
上記掲載画像を映画『新学期 操行ゼロ (Zero de conduite : Jeunes diables au college)』 [ジャン・ヴィゴ (Jean Vigo) 監督作品 1933年制作] にしたのは、彼らの彼女に対する振舞いに一切、性的なメタファーがないからだ。もしも、この後の彼らと彼女を綴る事があったとしても、映画『女教師』 [田中登監督作品 1977年制作] にも映画『先生を流産させる会 (Let's Make The Teacher Have A Miscarriage Club)』 [内藤瑛亮監督作品 2011年制作] にも、そんな物語になり得る事はない [だからといって、世の中に溢れかえっている"学園ドラマ"に収束してしまうのも、いかがなものか]。
そんな創作物の登場人物達の眼から観れば、彼女に対する彼らのおこないは稚戯にも等しいかもしれない。だけれども、それだけにかえって、残酷なものでもあるのだ。
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