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2013.05.10.12.23

Raindrops Keep Fallin' On My Head

めざめるとおとこは、寝床の脇のカーテンをあけて、そとをみた。
「きょうもいい天気だ」
そんな独り言を発しながら、おとこは身支度を始める。
窓の外は、雨。激しく叩きつける様な大粒の雨しかみえない。

その地は、晴天をしらない。晴天ばかりか、曇天も知らず、一年中、やむ事を知らぬ雨が降っている。それは、天地開闢以来、その地に定められた運命の様なものだった。

おとこが寝室を出ると、朝の炊事の音が聴こえる。いつもの朝だ。
テーブルの己の指定席にこしかけて、コーヒーを入れる。

「きのう、へんなおとこに逢ったよ」
おとこは、おんなにむけて声を発するが、返事はない。
おとこも特に、おんなの応対を待ってはいない。単なる朝の挨拶でしかないし、だからと言ってかしこまって、そんなことばをなげかける必要を感じなかっただけだ。

馴染みの酒場で、見知らぬ人物とおとこは遭遇した。彼独りではない。そこには、店主も勿論いたし、彼の呑み友達もなんにんか居た。つまり、普段と変わらぬ日々のお愉しみの場に、珍客がひとり、紛れ込んで来たのである。

その人物は、雨のない国から来たと言う。

この最初の自己紹介で、酒場は大爆笑だった。何故ならば、雨とは彼らが産まれる前から降っているものであり、彼らが死んでしまった後もずっと、永遠に降り続けるものだからである。

そんな途方もない与太話(酒場の常連達の立場からでは)を始めるその人物は、それ故に、すぐにその場で大笑いにまみれながら、歓迎された。いつもいつも、相変わらずの生活に追われているもの達にとっては、旅人であるというだけで、その物珍しさが歓迎される。しかも、その夜は物珍しさだけではなく、法外な法螺話がついてくるというのだ。
その場にいた酔客の誰もが、我も我もと彼に一杯、御馳走した。それも、もっともな話なのである。

その人物が語るのには、彼が棲んでいた雨のない国では、水は地にあるものだと言う。ほそながい経路となって流れる「かわ」というものや、ただひたすらおおきな水がたたえられている「いけ」や「みずうみ」や「うみ」というものがあると言う。
そんな途方もない話を語るその人物を、皆、にやにやと酔っ払い特有の濁った笑顔で聴いているのだ。そして、最後に登場した「うみ」は、塩の味がすると聴いて、また大爆笑となった。

「親父、そこでパスタ茹でたら楽勝だな」
酔客のひとりが店主に向けて、叫ぶのだった。
「酒のあじがすると、いいな」
「なら、こんな店いらねえや。毎日そこでかっくらえばいいんだから」

この地は、水は総て雨から取り入れる。そして、降り注ぐ雨は総て土の中に吸い込まれていくだけだ。川も河も池も沼も湖も海もない。長い長い間降り続く雨によって地質は、水というものを一切たたえられない。まるで笊かなにかの様なものに変質してしまっている様なのである。

おとこはつましい朝食の間ずっと、昨晩出逢ったその旅人の話を語り続けていた。そして、おんなはそんなおとこの長広舌を黙って聴きながら、給仕をする。いつもの朝だった。おとこの口からでるものがその日、一風変わったものであるだけで、いつもと変わらぬ朝だった。

窓の外は、雨。激しく叩きつけている。

[the text inspired from the song "Raindrops Keep Fallin' On My Head" on his album "Raindrops Keep Fallin' On My Head" sung by B. J. Thomas, written by Hal David and Burt Bacharach for the movie "Butch Cassidy And The Sundance Kid" directed by George Roy Hill.]


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