FC2ブログ

2013.04.30.09.38

おすかーわいるどのこうふくなおうじ

オスカー・ワイルド (Oscar Wilde) 作の『幸福な王子 / The Happy Prince』は、1888年発表の短編。この作品を表題に掲げた短編集『幸福な王子その他 (The Happy Prince And Other Tales』が初出である。

幸福な王子 / The Happy Prince』という物語は、『グリム童話 (Kinder- und Hausmarchen)』 [ヤーコプ・グリム (Jacob Grimm) ・ヴィルヘルム・グリム (Wilhelm Grimm) 編 1812年発表] の様な民間伝承に取材したモノでも、『寓話 (Fables choisies, mises en vers par M. de La Fontaine)』 [ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ (Jean de la Fontaine) 作 1668年発表] の様なかねてから伝わるモノを翻案した様なモノではない。つまり、純粋に作者オスカー・ワイルド (Oscar Wilde) の創作作品である。
だから、あえてこの拙稿の表題の様に、作者名を併記して、半ば限定的な表記をする必要はない。
尤も、この連載ルール上、そうせざるを得ない状況ではあるのだけれども、それだけが理由ではないのである。

幸福な王子 / The Happy Prince』という物語は、恐らく他の誰もがそうである様に、幼児期にいくつもある童話の中のその一編として、ぼくは出逢っている筈だ。
その記憶が正しいものかどうかを証明する手立てはない。
だけれども、『幸福な王子 / The Happy Prince』と聴くと、開いた童話集の中に、こんな情景が広がっていた様な記憶がある。

ひろいひろい青空の下、遥か彼方から仰ぎ見る様なアングルで街全体が描かれている。そして、その一点に遥かに高く、黄金色に輝く像がそびえ立つ、見開き2頁のイラストだ。勿論、そんな視点からは黄金色の像の表情を伺い知る事は出来ないし、もう一方の主役であるツバメ (A Little Swallow) はどこにいたのだろう。もしかすると、王子 (The Happy Prince) の像の上空をくるっとおおきな円弧を描いて飛翔していたのかもしれない。

と、言う様なぼく自身がこの作品から得ているヴィジョンに、どこまで普遍性があるかは解らないけれども、少なくとも、幼児期にこの作品に接したモノならば、実際に観たヴィジュアルの記憶と、そこに綴られている物語の印象から、個々それぞれが、独自の心象風景を抱いているのではないだろうか。

そして、長じた後に、オスカー・ワイルド (Oscar Wilde) という作家を知り、その彼のいくつもある代表的な作品群の中の一編に『幸福な王子 / The Happy Prince』という物語を見いだして、軽い驚きや目眩にも似た戸惑いを感じたのではないだろうか。
つまり、巷間伝わるオスカー・ワイルド (Oscar Wilde) のパブリック・イメージには、『幸福な王子 / The Happy Prince』はあまりにもそぐわない。なにせ、『ドリアン・グレイの肖像 (The Picture Of Dorian Gray)』 [1890年発表] に『サロメ (Salome)』 [1891年発表] に『獄中記 (De Profundis)』 [1905年発表] なのだ。こんな作品群の作者が、果たして、『幸福な王子 / The Happy Prince』の様な物語を書く謂れはどこにもない。
むしろ、この物語を揶揄し韜晦したその上で、転倒させた、悪意に満ちたパロディ作をものしそうな印象さえ受ける。もしかすると、吾妻ひでお (Hideo Azuma) の『不幸な王子 (The Unhappy Prince)』 [1978年発表] の原作者こそ、彼ではないか、そんな印象さえ抱いてしまうのである。

と、言う訳で、あらためてここで作品そのものにあたってみよう。
原文ならばこちらで読む事が出来るし、邦訳ならばこちらで読む事が出来る。

如何だろうか。
恐らく、幼児期から抱え込んでいた心象をそのまま補完する様なモノではないのではないだろうか。むしろ、その心象を裏切る様な設定や描写が横行し、それにばかり眼が奪われなかっただろうか。
誰しもが、えぇ、こんなお話だったの!? という様な印象を抱くのに違いないと、想うのだけれども、如何だろうか。

勿論、物語の骨子は変わらない。物語の中では、起こりうる事が総て起き、成され得る事が総て成され、主な登場人物達の生は、総てきちんと回収されている。
でも、なんとなく、納得がいかないのは何故か。
物語そのものに軽い違和感を感じてしまうのは何故か。

それは、この作品に登場する人物達の人物設定や性格設定が、かつて親しんだ物語の中のそれと齟齬を来しているからなのだ。

物語終焉部に登場する市長 (The Mayor) とその取り巻きの市会議員 (The Town Councillors) が、皮肉まじりのカリカチュアされた姿として描写されているのは、まだ解る [解ると同時に、こんな描写こそ、ぼく達が抱く、オスカー・ワイルド (Oscar Wilde) のパブリック・イメージを補填させてくれる]。
だけれども、主役の一人であるツバメ (A Little Swallow) は、こんなに軽薄な性格と行動様式でいいのだろうか。そんなツバメ (A Little Swallow) が、どこにでもいるようなツバメ (A Little Swallow) が、王子 (The Happy Prince) の命に従って行動するうちに、王子 (The Happy Prince) に感化されていったと、解釈をする事は出来なくはないけれども、それでも、物語冒頭のツバメ (A Little Swallow) の描写は、受け入れ難いモノは、なくはないだろうか。

と、同時に、王子 (The Happy Prince) とその指示に従うツバメ (A Little Swallow) に救済されるヒトビトの描写も、ヘンなのだ。特に、王子 (The Happy Prince) のサファイア製 (Made Of Rare Sapphires) の両眼を提供されたヒトビトが、だ。
最初に片眼を与えられたのが、売れない脚本家 (A Young Man In A Garret) であって、遺りの片眼を与えられたのが、マッチ売りの少女 (A Little Match-girl) である。
前者は言うまでもなく、当時の作者自身を投影したモノであろうし、後者も恐らく絶対的に、『マッチ売りの少女 (Den lille Pige med Svovlstikkerne)』 [ハンス・クリスチャン・アンデルセン (H.C. Andersen) 作 1848年発表] を意識したモノであると考えられる。
オスカー・ワイルド (Oscar Wilde) が当時の世に初めて注目を集めるのは1881年の渡米以降だと想うのだけれども、それは彼の作品ではなくて彼自身の服装や行動様式の珍妙さからだった。作家としての評価は『サロメ (Salome)』 [1891年発表] の発表に前後する辺りからだと、想われる。『幸福な王子 / The Happy Prince』発表の数年後の話だ。つまり、本作品執筆当時は、まだまだ無名の三文小説家でしかなかった。とは言うものの、だからと言って、自身の作品の中で自身の分身を救済させるという発想は、一体、どこから来たのだろうか。そこに作者独自のヴィジョンを見いだせる様な気がするが、如何だろうか。
そして、『マッチ売りの少女 (Den lille Pige med Svovlstikkerne)』で主人公を凍死させてしまったハンス・クリスチャン・アンデルセン (H.C. Andersen) に対する見解を、この作品でマッチ売りの少女 (A Little Match-girl) を救済させた作者の表明の様に読んでしまうのは、穿ったものもしくは穿ちすぎたもの、なのだろうか。

と、言う様に周縁に登場する人物群を観てゆくと、最期にひとり、主人公だけが取り遺される。
王子 (The Happy Prince) である。
彼だけが、一切、裏切らない。と、言うか、ぼく達の幼児体験をそのまま投影し補完してくれている。
彼だけが聖性を獲得し、純真である様に想えて来る。
彼の魂が最期に、神によって救済されるのもうべなるかな、とでも言うべきなのかもしれない。

確かに、その通りなのである。
だけれども、この物語に登場する多くの人物群の中に彼を据えてみると、"幸福 (Happy)"を通り越して"お目出度い (Too Good‐natured)"と、蔑みの言葉を投じたくなる。そんな欲求に、もう、ぼくには逆らえないのだ。

images
『死』というのは『眠り』の兄弟、ですよね (Death is the brother of Sleep, is he not?) [上記掲載画像はケイト・ベイレイ (Kate Baylay) による『その天使は、神さまのところに鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきました (... The Angel Brought Him The Leaden Heart And The Dead Bird.)』。]


次回は「」。

関連記事

theme : ふと感じること - genre :

i know it and take it | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/1121-2810634b

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here