2013.04.29.13.34
こんな夢をみた。

"the poster for the movie "The Evil Dead
" directed by Sam Raimi
さっきからずっと、ネオンライトが輝く道を歩いている。独りだ。どこから来たのか解らないし、どこへ行こうとしているのかも解らない。ただ、幾つもの灯りがランダムに瞬き、本来は闇の路を照らし続けている。
紅。蒼。橙。紅。蒼。桃。翠。紅。蒼。紫。紅。蒼。そして一瞬の闇。
紅。蒼。橙。紅。蒼。桃。翠。紅。蒼。紫。紅。蒼。再び一瞬の闇。
繰り返し輝いては消える灯火をうけて、ぼくはまだら模様に染まり続ける。まるで、周囲の色彩に同化しようと懸命になっているカメレオンの様だ。
ふいに背後から襲われる。太い腕がぼくの胸元を押さえつける。
ぼくの半身は、その腕によって自由を奪われ、無様にも右腕だけがその力を逃れようと、虚空を舞う。
ぼくの背の左は、その腕の持ち主の胸元に押さえつけられ、その鼓動が激しく響く。
そうして、もがいているうちに、どのくらいの時間が経過したのだろう。総ては一瞬の出来事の様にも思えるし、果てしない永い時が過ぎた様にも思える。
ぼくの視線のその先に、一枚の剃刀の刃がきらめく。その鋭利な輝きは、その持ち主の野太い腕には、あまりにも似つかわしくない。そして、だからこそ、恐怖がいや増しに増加する。その刃は、まっすぐにぼくの喉元へと、振り下ろされるのだ。
この間に、一体、なにが起きたのだろう。
いつのまにか、ぼくは襲撃者の胸元に馬乗りになっている。
形勢が逆転したのだ。
いつしか、剃刀もぼくの右掌がしっかりと握りしめ、ぼくの下でもがいているものの、頚筋へと振り下ろされようとしている。勿論、そいつは懸命にその動きを押しとどめようと、不自由な態勢で最期の抵抗を試みる。
しかし、それも時間の問題だ。
ぼくの持つ刃は、そのものの口許に触れて、うっすらと血が滲む。
もうすぐだ。
皮膚を斬り、肉を断ち、舌が哀れにも半身を喪い、すうっと顎の奥底までも、刃が吸い込まれてゆく。
頸動脈を斬る事が出来れば、噴き出る血潮であたり一面は朱に染まっただろう。その点では、悔いが遺る結末だ。だがしかし、こんな具合に、紅く濁った沼の様な血潮に頭部全体が沈み込んでいる景色も、決して悪くない。
ふと、笑みがこぼれる。
そうして額に浮かぶ汗を拭うと、袖が深紅に染まる。
悪くない、悪くない。
だが、格闘の果てとなっても、あの剃刀は、未だにぼくの手許にあるのだ。それはそのまま食い込んで、ぼくの身体の一部と化すだろう。
ぼくの名を呼ぶ声に振り向く。副総裁がぼくを待っているという。
定刻を数分過ぎて開始された宴席もたけなわ、この時間ならば、もう流石に遅刻して来る出席者はいないだろう。来るべきヒトは既に宴にあり、あとは招かれざる客との応対だけだ。
周囲のモノに簡単な指示を幾つか与え、ぼくは副総裁の席へと向かう。
今日の宴席の、建前は既に終わったらしい。ここにあるのは、本音ばかりだ。
喰い散らかした皿と呑みこぼしたグラス。そして、だらしのない酔客達。これが彼らの正体だ。まだ、着服しているだけ良しとしよう。
「お呼びでしょうか」
「ああ、ああ。そうだ。呼んだんだ。まあ、いい。そこに坐れ」
最初の「ああ」の語尾は上がり、次の「ああ」の語尾は下がる。どうやら、体よく、己の用件を失念してくれたらしい。
こんな時に発せられる指示や命令程、厄介なモノはないからだ。
「いいえ。まだ仕事が遺っております。こちらで伺いましょう。なんですか」
何故ならば、彼の「坐れ」という場所は、床なのだ。下らぬ押し問答なんか無用のモノだ。
すると、後ろから声がかかる。振り返ると総理だ。どうみても、副総裁以上に出来上がっている。お約束通り、ネクタイも額に巻かれているのだ。
ともかく、ふたりの酔客、しかもたちの悪い酔っ払いを適当にあしらい、元の持ち場に戻る事にする。だが、その前に用をたして行こうとすると、それがかえって仇となる。
既にかなり遅い時間だからだろうか、直近のトイレは鍵がかかっていて入れない。そこにある案内を観れば、庭を横切った向こうにある、という。
夜もまもなく果てるのだろう。薄闇が広がる庭をぼくは走っている。芝は夜露を含んで重く、ややもすれば、柔らかい土に脚を奪われそうになる。
その庭の中央にちいさな池と、それに面してちいさな庵が設けられている。そこに、ぼくの目指すモノがある。
中に入ろうとすると、子供達が口々に罵っている。
「臭い」「汚い」「酷い」「吐きそう」「気持ち悪い」
確かにそこは汚物だらけで、酷い悪臭ばかりが漂う場所だ。
とりわけ、男子用の個室のひとつが凄まじい様相を呈している。
子供達の多くは、遠巻きにしてそれを眺めるばかりだ。だが、中には勇敢? なモノがそれを実際に観に、中に入る。そして一瞬の雄叫びをあげて、早々に退散して行くのだ。
ぼくはすっかり困惑してしまって、考えあぐねているうちに、ひとりの勇敢? な少年と接触して、尻餅をついてしまう。凄まじい汚れが、衣服にこびりつく。そしてそれを観た子供達が大声で、ぼくを蔑むのだ。
「臭い」「汚い」「酷い」「吐きそう」「気持ち悪い」
居たたまれなくなったぼくは走って逃げ、ふと観ると、噴水のたもとにいる。服を着たまま、水の中に脚を進め、汚れという汚れを一切、押し流そうとする。
夜明けだ。
ターミナル駅にも一本、また一本と始発が入って来る。重い腰を上げて、ぼく達は三々五々、乗るべき路線のホームに向かって歩き出す。今度逢う時はいつになるのだろう、それよりも、そんな機会はまたあるのだろうか。もう、総ては終わったのも当然なのだ。
ひとり、またひとりと別れを告げて、階段を駆け上る。感慨や感傷は、一切、おかまいなしだ。
救急車両が駆け抜ける音よりも、鴉の声の方が大きく響く。
そんないつもの朝がまたやってくる。

"the poster for the movie "La dolce vita
" directed by Federico Fellini

"the poster for the movie "The Evil Dead
さっきからずっと、ネオンライトが輝く道を歩いている。独りだ。どこから来たのか解らないし、どこへ行こうとしているのかも解らない。ただ、幾つもの灯りがランダムに瞬き、本来は闇の路を照らし続けている。
紅。蒼。橙。紅。蒼。桃。翠。紅。蒼。紫。紅。蒼。そして一瞬の闇。
紅。蒼。橙。紅。蒼。桃。翠。紅。蒼。紫。紅。蒼。再び一瞬の闇。
繰り返し輝いては消える灯火をうけて、ぼくはまだら模様に染まり続ける。まるで、周囲の色彩に同化しようと懸命になっているカメレオンの様だ。
ふいに背後から襲われる。太い腕がぼくの胸元を押さえつける。
ぼくの半身は、その腕によって自由を奪われ、無様にも右腕だけがその力を逃れようと、虚空を舞う。
ぼくの背の左は、その腕の持ち主の胸元に押さえつけられ、その鼓動が激しく響く。
そうして、もがいているうちに、どのくらいの時間が経過したのだろう。総ては一瞬の出来事の様にも思えるし、果てしない永い時が過ぎた様にも思える。
ぼくの視線のその先に、一枚の剃刀の刃がきらめく。その鋭利な輝きは、その持ち主の野太い腕には、あまりにも似つかわしくない。そして、だからこそ、恐怖がいや増しに増加する。その刃は、まっすぐにぼくの喉元へと、振り下ろされるのだ。
この間に、一体、なにが起きたのだろう。
いつのまにか、ぼくは襲撃者の胸元に馬乗りになっている。
形勢が逆転したのだ。
いつしか、剃刀もぼくの右掌がしっかりと握りしめ、ぼくの下でもがいているものの、頚筋へと振り下ろされようとしている。勿論、そいつは懸命にその動きを押しとどめようと、不自由な態勢で最期の抵抗を試みる。
しかし、それも時間の問題だ。
ぼくの持つ刃は、そのものの口許に触れて、うっすらと血が滲む。
もうすぐだ。
皮膚を斬り、肉を断ち、舌が哀れにも半身を喪い、すうっと顎の奥底までも、刃が吸い込まれてゆく。
頸動脈を斬る事が出来れば、噴き出る血潮であたり一面は朱に染まっただろう。その点では、悔いが遺る結末だ。だがしかし、こんな具合に、紅く濁った沼の様な血潮に頭部全体が沈み込んでいる景色も、決して悪くない。
ふと、笑みがこぼれる。
そうして額に浮かぶ汗を拭うと、袖が深紅に染まる。
悪くない、悪くない。
だが、格闘の果てとなっても、あの剃刀は、未だにぼくの手許にあるのだ。それはそのまま食い込んで、ぼくの身体の一部と化すだろう。
ぼくの名を呼ぶ声に振り向く。副総裁がぼくを待っているという。
定刻を数分過ぎて開始された宴席もたけなわ、この時間ならば、もう流石に遅刻して来る出席者はいないだろう。来るべきヒトは既に宴にあり、あとは招かれざる客との応対だけだ。
周囲のモノに簡単な指示を幾つか与え、ぼくは副総裁の席へと向かう。
今日の宴席の、建前は既に終わったらしい。ここにあるのは、本音ばかりだ。
喰い散らかした皿と呑みこぼしたグラス。そして、だらしのない酔客達。これが彼らの正体だ。まだ、着服しているだけ良しとしよう。
「お呼びでしょうか」
「ああ、ああ。そうだ。呼んだんだ。まあ、いい。そこに坐れ」
最初の「ああ」の語尾は上がり、次の「ああ」の語尾は下がる。どうやら、体よく、己の用件を失念してくれたらしい。
こんな時に発せられる指示や命令程、厄介なモノはないからだ。
「いいえ。まだ仕事が遺っております。こちらで伺いましょう。なんですか」
何故ならば、彼の「坐れ」という場所は、床なのだ。下らぬ押し問答なんか無用のモノだ。
すると、後ろから声がかかる。振り返ると総理だ。どうみても、副総裁以上に出来上がっている。お約束通り、ネクタイも額に巻かれているのだ。
ともかく、ふたりの酔客、しかもたちの悪い酔っ払いを適当にあしらい、元の持ち場に戻る事にする。だが、その前に用をたして行こうとすると、それがかえって仇となる。
既にかなり遅い時間だからだろうか、直近のトイレは鍵がかかっていて入れない。そこにある案内を観れば、庭を横切った向こうにある、という。
夜もまもなく果てるのだろう。薄闇が広がる庭をぼくは走っている。芝は夜露を含んで重く、ややもすれば、柔らかい土に脚を奪われそうになる。
その庭の中央にちいさな池と、それに面してちいさな庵が設けられている。そこに、ぼくの目指すモノがある。
中に入ろうとすると、子供達が口々に罵っている。
「臭い」「汚い」「酷い」「吐きそう」「気持ち悪い」
確かにそこは汚物だらけで、酷い悪臭ばかりが漂う場所だ。
とりわけ、男子用の個室のひとつが凄まじい様相を呈している。
子供達の多くは、遠巻きにしてそれを眺めるばかりだ。だが、中には勇敢? なモノがそれを実際に観に、中に入る。そして一瞬の雄叫びをあげて、早々に退散して行くのだ。
ぼくはすっかり困惑してしまって、考えあぐねているうちに、ひとりの勇敢? な少年と接触して、尻餅をついてしまう。凄まじい汚れが、衣服にこびりつく。そしてそれを観た子供達が大声で、ぼくを蔑むのだ。
「臭い」「汚い」「酷い」「吐きそう」「気持ち悪い」
居たたまれなくなったぼくは走って逃げ、ふと観ると、噴水のたもとにいる。服を着たまま、水の中に脚を進め、汚れという汚れを一切、押し流そうとする。
夜明けだ。
ターミナル駅にも一本、また一本と始発が入って来る。重い腰を上げて、ぼく達は三々五々、乗るべき路線のホームに向かって歩き出す。今度逢う時はいつになるのだろう、それよりも、そんな機会はまたあるのだろうか。もう、総ては終わったのも当然なのだ。
ひとり、またひとりと別れを告げて、階段を駆け上る。感慨や感傷は、一切、おかまいなしだ。
救急車両が駆け抜ける音よりも、鴉の声の方が大きく響く。
そんないつもの朝がまたやってくる。

"the poster for the movie "La dolce vita
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