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2013.04.23.19.31

ゆうがお

植物の品種に関して書き連ねてもよいのだけれども、ここではその名を与えられた女性が登場する『源氏物語 (The Tale Of Genji)』の『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』について、書いてみる事にする。
作者は、言うまでもなく、紫式部 (Murasaki Shikibu) である。

中学だか高校だかの古典のテキストとして登場し、ぼくの記憶に誤りがなければ、『源氏物語 (The Tale Of Genji)』の原典に最初に接したのが、この『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』である。

と、断言したいところだけど、少しおぼつかない。もしかしたら、その次の『第5帖 若紫 (Chapter 5 : Lavender)』かもしれない。

どちらでもいい、たいした問題ではない、と切り捨てて先を急いでもいいのだけれども、学校の授業という箍の中とは言え、どちらを先に読んだのかで、実はこの長編小説への印象に、歴然とした差がついてしまう様な気がするのだ。

第5帖 若紫 (Chapter 5 : Lavender)』は、主人公である光源氏 (Hikaru Genji) と後にその妻のひとりとなる紫の上 (Lady Murasaki) との出逢いの場だ。出逢いと言うと、少し問題があるかもしれない。一方が他方を認め、それを凝視める物語だ。
ただ、いずれにしても、ここから読み始める事は、この長編小説を、光源氏 (Hikaru Genji) と紫の上 (Lady Murasaki) を主軸とした物語として解読して行く事になる事は間違いない。

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だけれども、その前帖である『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』を最初に読めば、この長編小説に対して、異なるアングルを与えられて解読して行く事になる [掲載画像は『源氏物語屏風 紙本金地著色 夕顔』 [岡山城 (Okayama Castle)蔵] 物語冒頭を図案化したモノに観える]。

第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』は、ある意味で、ひとつの短編小説としての結構を備えている。
まず、おとことおんなの出逢いがあり、そのおんなの突然の死による別れがある。この次点で、エロス(Eros) とタナトス (Thanatos) が既に備わっているのだ。さらに言えば、そこにある死は怪異によってもたらされたモノであって、物語にある悲劇性にさらなる暗い影をおとしている。
ひとつのエンターテイメント作品として『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』を眺めれば、そこに最低限に必要な要素が一切、欠ける事なく総てが盛り込まれている様にも、読めてしまうのだ。

だけれども、それらを踏まえて『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』が、短編小説として完結しているかと自問すると、首肯する事は躊躇われるモノがある。
それは、物語の中で描かれるべき、いくつもの要素が、その中で描写しきられてはいないからなのだ。
つまり、物語を成立させる為の、いくつかの大事な要素が『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』の外で、描かれているのである。

例えば。

光源氏 (Hikaru Genji) が夕顔 (Evening Face) の様な身分違いのおんなと出逢う、そもそものきっかけ、もしくは動機は、前々帖である『第2帖 帚木 (Chapter 2 : The Broom-Tree)』で描かれている。

物語のクライマックスである、夕顔 (Evening Face) の死の原因、つまり、光源氏 (Hikaru Genji) を脅かす怪異の正体はここでは語られず、 [しかも物語全帖でも明らかにされず] その変奏が『第9帖 葵 (Chapter 9 : Heartvine)』で顕われ、同じ様に葵の上 (Lady Aoi) の生命が脅かされ奪われるのである。

そしてさらに言えば、夕顔 (Evening Face) の忘れ形見、玉鬘 (Jeweled Chaplet) が『第22帖 玉鬘 (Chapter 22 : Jeweled Chaplet)』以降に登場し、長編小説後半の主牽引としての役割を担うのである。敢て言えば、物語後半のヒロイン玉鬘 (Jeweled Chaplet) を登場させる為の、遥かなる伏線が『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』である、と断言出来るのかもしれない。

と、書いてしまうと、『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』からは、次帖『第5帖 若紫 (Chapter 5 : Lavender)』と同様に、夕顔 (Evening Face) 〜玉鬘 (Jeweled Chaplet) を主軸とするもうひとつの長編小説としての、相貌を見いだせるのかもしれない。

そうかもしれない。

だけれども、紫の上 (Lady Murasaki) を主軸とした物語と、夕顔 (Evening Face) 〜玉鬘 (Jeweled Chaplet) を主軸とした物語は、決して相似形ではない。2本の太い縦糸でもないし、デオキシリボ核酸 (DNA : Deoxyribonucleic Acid) の様な二重螺旋構造 (Double Helix) でもない。
紫の上 (Lady Murasaki) の物語は、寄り道を一切しないまっすぐな正直な物語だけれども、夕顔 (Evening Face) 〜玉鬘 (Jeweled Chaplet) の物語は、蛇行もあれば揺り戻しもある、波瀾万丈の物語なのである。

だから、このふたつの相異なる物語の流れに、さらにいくつもの傍系の物語が絡み合い縺れ合う事によって、この長編小説は、複雑怪異な構成を成し得たのではないだろうか。

なお、この記事を書き進める事によって、『源氏物語 (The Tale Of Genji)』の各帖を玉鬘系と紫上系の2系列に分類する思考を知った。だけれども、その分類方法では、『第9帖 葵 (Chapter 9 : Heartvine)』の認識が、ぼくがここまで書き進めてきた事と違う様だ。

次回は『』。

附記 1.:
第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』の悲劇的色彩をそっくりそのままネガ反転して喜劇にしてしまったのが、『第6帖 末摘花 (Chapter 6 : The Safflower)』。その事は既にこちらで紹介済みだけれども、そこで実は、かなりの文量を『第4帖 夕顔 (Chapter 4 : Evening Faces)』の説明に割いてしまっている。
だから、そこでは書ききれなかった事をここに書いてみたつもりだ。

附記 2.:
こちらの記事に『第2帖 帚木 (Chapter 2 : The Broom-Tree)』の有名なエピソード「雨夜の品定め (Appraisal Of Women On A Rainy Night)」が登場するが、これは単なる偶然である。
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