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2013.04.05.12.55

Mystery Train

冬の終わりに南に向かう汽車に乗った。

冬が終わる予感はあるものの、春が来る気配はまだない。
その年、ぼくは最期の入学試験を終えてその日、東京に向かっていた。

往路を、前日到着の空路にしたのは当然の事としても、復路を鉄路にしたのは、単なるロマンティックだ。

言い訳はいくらでも出来る。
試験翌日には、受験生の一部に身体検査の可能性がある事。
試験翌日には、最難関の受験校の合否が発表される事。
つまり、皮算用が皮算用どおりに総てが上手くいけば、その日、第一志望校の入学に必要な諸手続きが開始可能なのである。

だけれども、それは試験翌々日でもなんの問題もない事で、しかも、まるまる一昼夜、列車の堅い椅子に揺られ続ける謂れはなにもない事なのだ。
一日延びた滞在予定のスケジュールを総てクリアにした後、来た時の様に、空路で東京に舞い戻ればいいだけの事なのだ。

とは言うものの、総てが悪い方向へ向かえば、数日間はそこに足止めになる可能性も充分にある。
と、いうのはその冬、例年以上の豪雪だったのだ。

でも、それも単にぼく自身の動機を確定させる為の、こじつけ以外の何者でもないのかもしれない。

要はつまり、とても単純な心理の動き。
単純に、北から南へと上る、冬の終わりの旅を味わいたかっただけなのだ。
一浪中の受験生という、あやふやな身分を先延ばしにして、逝く宛もない風来坊の様な時間と空間を、満喫したかっただけなのかもしれない。
それが総てなのだろう。

その日、総ての科目の試験の終了後、ぼくも含めて受験生の誰もが身体検査の必要がない事がアナウンスされて以来、手許の時刻表を捲りながら、最も劇的な復路を捜すのに懸命になる。
もしかしたら、二度と縁のない土地、もしかしたら向後4年間は嫌でも暮らすかもしれない土地、今はまだどちらになるとも言えない。
そんな土地を一日、ゆっくりと観光しようとは一切、考えに浮かばなかったのだ。

だから、夕食後、受験生御用達のそのホテルの宿泊を一泊キャンセルし、その日の最終便に乗る事にしたのは、その時のぼくにとっては、最良の選択に思えたのである。
4月以降のあてが一切ないその時のぼくにとっては、それが最大限の我が儘であり最大限の贅沢に想えたのである。

折からの降雪で到着が半時程遅れたその列車に乗って、あとはただ、夜の明けるのを待ちながら、東京に到着するまで、眠るだけだった。

[the text inspired from the song "Mystery Train" for the album "Elvis' Golden Records" by Elvis Presley]


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